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ショートストーリー 花嫁のひととき

ショートストーリー 花嫁のひととき2022-06-13

花嫁のひととき
著:昭和のゲルバラ








真夜中に鳴り響く携帯電話を見て茂雄は眉をしかめた。
「K商事」からの着信だった。
どうせろくな用件ではあるまいと思いながらも茂雄が電話にでると
「茂雄か?」とボスの声がした。

「お前さんの彼女が危篤だ。すまんが病院へ行ってくれ。」
自分に決まった女はいないし、それをボスが知る由もない。
茂雄は一瞬考えてある事を思い出した。
1年ほど前に、ボスに頼み込まれ、自分は形だけ籍を入れていたのだ。
そうだ、自分には顔も見たことのない、妻がいる。

「重たい病気ですか。」とボスに尋ねると
「くだらん病気だ。きちんと医者にかかれば完治するものを、
国を恐れて病院へ行かなかったものだから、手遅れになっちまった。」
腹だたしげなボスの言葉はここの所業績が伸びていない苛立ちを感じさせるものだった。


茂雄がなんともいえない気持ちで病室に入ると妻である女は眠っていた。

仕方なく茂雄は買ってきたバラの花を花瓶に生けて窓辺に置くと
殺風景な病室も少しだけ明るくなった。

付き添い椅子に腰を下ろし、ベッドへ横たわる女の顔を暫く見つめていた。

やつれてはいるが、整った顔立ちだと茂雄は感じたし、
目をつぶっていても、タイプだ。と思った。

ゆっくりと目を醒ました女はボンヤリした目で赤いバラを見つけると
口元に微笑を浮かべた。

傍らにいる茂雄と視線が合うとボンヤリした瞳は一変に生気を取り戻し、
じっと茂雄を見つめ返してきた。

「シゲオサン…?」
というつぶやきに茂雄が頷くと、
瞳が潤み、みるみるうちに涙で一杯となり、大粒の涙があふれた。

「アリガトウ」と彼女は言い、「アイタカッタ」と付け加えた。

彼女は枕元から一通の封筒を取り出すと茂雄に差し出した。

宛名に自分の名前を認めた茂雄は中身を取り出した。
それは手紙のようなものだが中身を一読してもさっぱり意味がわからなかった。
そこには丁寧ではあるが平仮名が並んでいる暗号文のようなものだった。

茂雄はもう一度、ゆっくり頭の中で漢字に返還しながら読み返した。

「私はワワと申します。結婚してくれてありがとうございます。

ふるさとの母に仕送りするために、タイランドから日本に来ました。

しかし、母は死んでしまい、私は茂雄さんに会える日が来ることを信じて生きてきました。

もうすぐ借金がなくなります。そうしたら茂雄さんに会いに行きます。

茂雄さんの身の回りの世話をしてあげる事が私の夢でした。

でも、もうダメです。さようなら

私と結婚してくれてありがとう。感謝しています。

Whawa」


手紙を読み終えた茂雄は彼女の手を取り強く握った。
彼女の目からまた涙が溢れ、か細い声で「アリガトウ」と言った。

茂雄が応えようとすると彼女は目をつぶり、安らかな眠りについたのだった。

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ページ作成日 2022-06-13

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